お茶・のり コバヤシ平塚店 店主インタビュー

「やっぱりコバヤシじゃないと」というひいきが多い、地元の人気店

平塚駅前商店街にほうじ茶の香りが漂ってくると、多くの人が「あっ、見附町の角のお茶屋さんがセールをやってる」と思うとか、75年間にわたり人々にごひいきにされつづけてきた、お茶・のり コバヤシ平塚店、店長の小林彰さんに話を聞きました。

静岡の富士市でお茶を作っていたのがコバヤシの起源。戦後まもなく昭和21年に平塚でお茶屋を開業しましたが、当時の看板娘、小林綾子さんは98才になった今でも現役、お客さんから「おばあちゃん」「おばあちゃん」と慕われています。お客さんのことをよく覚えている綾子さんは、一人一人に「●●さん、いらっしゃい」と声をかけ、ひとしきり会話に花を咲かせます。お客さんを第一に、ご縁を大切にする人柄はそのまま引き継がれ、店員全員がひいきのお客さんをもって店を守り、今では辻堂店、大庭店と3店舗になりました。

看板商品のお茶、海苔、椎茸とも、日本一の産地から選りすぐりの逸品を仕入れています。「お馴染みのお客さんが違う店で買い物をしたら、ご家族から『味が違う』といわれたそうです」と小林店長、それほどまでに品質にはこだわっているのです。

最高のお茶をもとめて茶畑から製造・販売までを一貫化

お茶は、静岡県西部、深蒸しで有名な掛川茶です。寒暖差の大きい丘陵地で、お茶は昼間はたっぷりの日差しを浴び、夜の冷気でトロッとコクのある甘みを引き出します。

それを通常の1.5倍の時間をかけて蒸す深蒸し茶は、さらにまろやかで滋味深いお茶に仕上がります。

お茶ができるまでには、3つの工程(農家・荒茶工場・仕上工場)がありますが、コバヤシは数々の賞に輝いてきた静岡県No.1の工場と契約し、茶木の育て方から、蒸し方、仕上げ方まで、一貫した茶作りをして味を守ってきました。

作業着姿で、朝から晩まで泥まみれで茶を作る

店長の小林さんは、大学卒業後、大手PCメーカーで営業の仕事をしていました。いずれは店を継ぐつもりではいましたが、仕事が面白く辞められませんでした。「そろそろ戻ってこい」という催促、30才間近にようやく家業に入りましたが、最初は、「『煎茶と茎茶とほうじ茶ってどこが違うの?』というくらい、お茶については何も知らなかった」そうです。

入社してすぐに送り出されたのが、掛川の契約工場。ちょうど新茶の時期、朝3時に起きて夜9時まで、お茶作りの3つの工程(農家・荒茶工場・仕上工場)をすべて体験しました。収穫した40キロのお茶袋を担いで運んだり、朝昼晩と皆で食事をとり、テレビもない部屋で休むときのほかはプライバシーゼロ。「ネクタイ締めて土日は休みというサラリーマンにはすごいカルチャーショック」と、後で父でもある社長に抗議したら、「何もないほうが吸収できるだろうと思って。知っていたら行かなかっただろう」といわれたとか、しかし「おかげで産地としっかり絆ができた」といいます。

審査員を務める茶師になり、ますますお客さんの求めに応えたいと思う

2ヶ月の新茶のシーズンを乗り越え、平塚店に配属された小林さん、接客から配達、店の仕事を一から覚える毎日でした。昔気質の商人である社長とは小さなことで衝突の連続でしたが、小林さんは本格的にお茶の勉強を始め、まず日本茶インストラクターを取得。次いで、茶の鑑定力を競う茶審査技術競技大会に毎年参加。お茶の見た目や味を見分けるもので、視覚、嗅覚、触覚、味覚、ときには第六感を働かせなければいけない難しい審査です。2段→6段→7段と段位をあげていきました。最高位は10段ですが全国で10数名しかいないという超難関、「神奈川県で7段は僕一人なので、現在は審査員を務めています」と、一流の茶師に成長したのです。

最近、「専門的になりすぎると見えなくなることがある」ことに気がつきました。「このお茶はここが優れているからとお勧めするのはもちろんですが、それ以上にお客さん目線になって、お客さんが求めていることに応えられるようにしなければ」と、お客さん第一のコバヤシの精神を改めて意識するようにしています。

自らコバヤシブランドのお茶を作る

小林店長は、毎年、新茶の季節には掛川に行き、コバヤシブランドのお茶の仕込みを決めてきます。同じ掛川のお茶といってもいろいろ、火入れの時間や配合(ブレンド)の程度でお茶の味が決まります。「深蒸し茶は蒸し時間が長いため粉っぽいんです。お客さんから『詰まっちゃう』といわれるので、扇風機みたいので飛ばすのですが、飛ばしすぎると味がなくなっちゃう」、「かぶせ茶といって10日間くらい暗闇で育てるとお茶の甘みが増すので、それを少しブレンドします」と、何種類も吟味し茶師に要望を伝え、火入れや配合を加減してもらい味を決めます。

「季節によっても、火入れや配合を変え、春の新茶シーズンは新茶のフレッシュな香りを味わって頂くために少し弱火で仕上げ、夏は冷茶で淹れることもできるよう緑色が鮮やかで甘味の強い品種を多く配合し、秋から冬にかけてはほっこりできるようだんだんと火入れ加減を強めていきます」と、さじ加減が難しくとても緊張する作業です。「『今年の新茶です』と売り出し、お客さんが『美味しかった』といってくれてやっとホッとする」のだそうです。

海苔は、これだという味を入札して落札

海苔は九州の有明産。「有明海苔は口のなかでとろけるんです。マグロのトロみたいに甘みがあって、色は赤身を帯びていますが、味がよく、端切れがいい。そこにこだわっています」と小林店長。有明海は干満の差が最大6mと大きいことと、大小100以上もの河川が流れ込みミネラルが豊富なことで知られています。満潮で海水に浸かった海苔は海の栄養をたっぷり吸収、潮が引くと海面にあがり日光を浴びてうま味を蓄えるのです。

コバヤシでは11月から始まる海苔の入札に参加して、実際に味を見ながらこれだという海苔を落札します。専門の工場に運び、コバヤシ用に商品化しています。これもとても緊張する時間で、お客さんの『美味しい』という顔を目指して頑張っています。

旨味や栄養分について意識する人が求める乾椎茸

乾椎茸は大分産です。大分は全国の椎茸生産の約半分を占める日本一の産地です。コバヤシの乾椎茸はすべて「原木椎茸」、2年かけてじっくりと育てられ、風味や香り、肉厚さにも優れています。最近では、室内で栽培し半年で出荷される菌床椎茸が増え生椎茸が出回るようになりましたが、「乾燥させることで旨味や栄養分が増す椎茸。それをご存知の方はやはり乾椎茸を求められますね」と小林店長。

お客さんが喜んでくれて、自分たちのためにもなるまちゼミ

まちゼミにも積極的に参加しています。これまでに「『10秒』で普通の緑茶が高級煎茶のような味になる!」、「親子で作るオリジナル緑茶」、「5分で簡単!キャラ弁体験」などを開催。10月には「海苔の食べ比べ」を開く予定です。「本当に美味しい海苔は、ご飯と醤油だけで主役になれるのに、一流寿司屋でも高級ホテルでも残念なことが多いのが現実。高価でなくても日常使いの『きず海苔』も選べば美味しいこと、身体にも良い成分がたっぷり含まれていることを、多くの人に伝えしたい!」と、小林店長は張り切っています。

辻堂店があるため藤沢市でもまちゼミを開催していますが、参加した人が「鵠沼の公民館でもやってほしい」とか、その話を聞いた人が「村岡でも」と、つながりが広がっています。某銀行の外国人スタッフ向けに開催して喜ばれたり、120人を前に話したこともあり、2ヶ月に1回くらいは何かしらのイベントをやっています。

まちゼミをするようになって、「僕たちスタッフも勉強するので仕事への視野が広がるし、回を重ねるたびに人前で話すのに慣れてきます」と、お客さんが喜んでくれるのも嬉しく、自分たちのためにもなっているといます。

「お茶の試飲会や、飲み比べ、海苔の食べ比べ、いろいろやってみたいけど、今はコロナで厳しくて、まち活の『きちきち』などを利用して、早く再開できるようになればいい」と続けました。

3店舗で協力して、次々と新しいことにチャレンジ!

平塚店のほかに、辻堂店と大庭店の3店舗があるお茶・のり コバヤシ、それぞれの店長と社長の4人で毎週月曜日に会議を開き、さまざまなことを決めてきました。最近は、家族スタッフだけでなく、若いスタッフも増え、いろいろな提案をしてくれます。

昨年秋にはスタッフの提案で、日高昆布を仕入れアメリカのアマゾンで販売してみました。「5ヶ月で1200本、結構売れているんですよ」と小林店長。「だんだんとお茶・海苔・椎茸も出してみたい」と検討しています。また昨年11月には新商品の「バター風味の味付けのり『1173 湘南(イイナミ ショウナン)』を作り販売。海の近くらしい可愛いパッケージは辻堂店のスタッフがデザインしてくれました。雑誌「散歩の達人」にも紹介され新しい湘南土産として注目されています。

「近々、国内でのオンラインショップを開店します。辻堂店ではお茶スタンドを作る計画も進行していますし、伝統的なオンラインショップとは一線を画した湘南ならではのセカンドブランドを立ち上げ、「おしゃれ」で「プチ贅沢」で「プチギフト」な商品で若い人の心もとらえたい」と、夢はどんどん広がります。

取材・文 椿 栄里子



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